身分証明書

2214年9月25日

23世紀社会には、全員に所持を義務付けられる写真付き身分証明書があります。義務といっても、発行を受け、自宅に保持することまでが義務で、外出時に携帯する義務はありませんが、様々な手続きや契約に際して提示が求められ、また警察官の職務質問でも提示が求められるので、事実上ほとんどの人が携帯します。

この身分証明が便利なのは、海外渡航に際してのビザ機能も付いていることです。国境というものがなくなった現在、ビザという固有の制度はありませんが、海外で保護を受けるための査証としては、この身分証明書が使われ、出入管理上も提示が求められるため、海外渡航に際しては携帯する必要があります。

紙の証明書以外に、携帯電話機に埋め込む電子版もあり、携帯する際はこの電子版が最も便利です。大元の台帳は居住する市町村の住民登録データベースにあるので、かつての住民基本台帳制度を発展させたようなものと見てよいでしょう。

ちなみに、長く日本の身分登録制度として機能していた戸籍という制度はもはや存在しません。これは法律婚制度が廃され、登録パートナーシップ制に置き換わったことによるものですが、事実上旧戸籍に相当するのが、身分証明書とリンクした住民登録データベースということになります。パートナーシップを結んでいる人はパートナーや子どもの氏名も登録されています。

この種の制度は抑圧的な個人情報管理につながるとして、かつては評判が悪かったのですが、現在は個人情報保護監と個人情報オンブズマンという専門的な監視及び人権救済制度が自治体に備わっているので、個人情報の適正な管理と権利擁護の体制は整備されています。

この身分証明制度は、いわゆる総背番号制とも違います。主として徴税と社会保障給付業務の効率化を目的とする総背番号制は、貨幣経済が廃され、租税制度も社会保障制度も必要としない23世紀の共産主義社会には不要なものですから、存在しません。現代の身分証明制度とはまさに身分証明のみを純粋に目的としています。

それでも身分証明書の所持が義務づけられる23世紀社会には管理社会的な様相も否めませんが、実際のところ、管理されていると煩わしく感じることはほとんどありませんし、そのような観点からの批判論も聞かれません。むしろ、こうした制度は家族中心から個人中心の社会に変化したことの反映と思われます。

ところで、筆者のように21世紀の旧世界から飛んできた者にも、身分証明書は発行されています。旧世界人であるという事実については、住民登録データベースではなく、警察のデータベースに秘密登録されているようです。こちらはどうも管理されている気分になりますが、実際に警察の監視下にあるわけではありません。
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by komunisto | 2014-09-25 14:34 | 法律