占有権優先法理

2215年6月12日

前回のたよりで、23世紀における「持たざる文明」のことをご報告しましたが、それに関連して、今回は「持たざる文明」が法的な理屈にも反映されていることをご紹介しようと思います。

かつての人類にとって最も重要な法的観念はと言えば、圧倒的に所有権でした。すべては所有権に始まり、所有権に終わると言っても過言でないほど、人類は所有権が支配する世界に住んでいましたし、そちら21世紀の世界はいまだそうでしょう。

これに対して、「持たざる文明」の下でも、所有権の観念は否定されないものの、それは住宅とその内部で日常使用される生活用具にほぼ限局されているため、そうした所有物も含め、事実上所持しているという占有権が優先されるのです。

ですから、窃盗罪の理解も大きく変容しています。窃盗罪と言えば、かつては圧倒的に他人が所有する物を盗むことと観念されていましたが、今では、他人が所持する物を盗むことが窃盗罪なのです。

ちなみにもう一歩突っ込みますと、この場合、占有状態には所有権が推定されるから占有権をひとまず優先するという理解ではなく、所有権とは切り離された占有権そのものが優先されるのです。

どう違うかと言えば、例えば、前回も触れたように、リユースされている大型家電のように、借り物であっても、他人の家庭で所持している物を盗み出せば、他人の占有権を侵害したがゆえに窃盗罪となります。

さらに、その家電泥棒氏が自分の家に所持していた盗品をさらに他人が盗み出した場合でも、泥棒氏の占有権を侵害したがゆえに、それも窃盗罪となるというのです。このことは、まさに占有権が所有権と切り離されて保護されることを示しています。

では、家電を盗まれた被害者が自ら犯人の自宅を突き止め、こっそり取り戻した場合はどうでしょうか。この場合、他人の自宅に不法に侵入した住居侵入の罪は免れませんが、窃盗罪にはなりません。この場合も犯人の占有権は侵害されてはいますが、被害者との関係では、加害者の占有権は保護されないというわけです。

なお、いわゆる「万引き」に関しては、窃盗罪ではなく、「社会的物資横領罪」という資本主義時代には聞いたことのない罪に問われることについては、初期のたよりでご報告しています。
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by komunisto | 2015-06-12 09:26 | 法律