精子バンク社会

2215年10月10日

23世紀の社会に住むようになってしばらくすると、近所で母子家庭が多いように見受けられたのですが、意外なことがわかりました。それは、精子バンクの幅広い普及により、初めからの母子家庭が多いことです。

23世紀の精子バンクは完全に公的な制度として確立されており、不妊症等の問題の有無を問わず、誰でも利用することができるオープンな制度となっています。これにより、実子の出産を望む女性には、パートナーシップを結んで子を生むか、精子バンクを通して子を生むかという二つの選択肢が保障されることになります。

毎年出産する女性の30パーセント近くが精子バンクを利用しているとのことで、母子家庭が多いのも首肯できます。「未婚の母」は決して珍しくも、後ろめたくもないのです。精子バンクの利用率は年々上昇傾向にあるとのことで、将来的には精子バンクを通じて生まれる子どもが半数を超えるとの予測もあります。

精子バンクの仕組みとして、以前は将来、子どもが遺伝上の父親を知る権利に答えるべく、精子提供者は原則として実名で登録しなければならなかったそうなのですが、それでは提供者が限られてしまうということから、実名を明かすかどうかを提供時点で選択できるようになりました。

ただし、匿名の場合でも、年齢(上限は45歳)や職業、出身領域圏などの部分情報は登録し、バンク利用者及び将来の子どもに開示される必要があり、完全な情報秘匿は認められていません。

ちなみに、利用者の中には精子提供者の容姿や人種を知りたい人もいるでしょうが、それを認めると容姿や人種による差別を助長する恐れがあるため、そうした差別につながる情報―差別誘発性情報―については、開示されないことになっています。

21世紀以前の旧人類的感覚からすると、精子バンクを当たり前のように利用する風潮には違和感を覚えるかもしれませんが、これまでにもご紹介してきたように、婚姻という制度が廃止された23世紀の人々にとって両親+子どもという家族構成は決して絶対のものではないようです。

実際、同じ母子家庭でも「離婚」―現行制度ではパートナーシップ解消―という子どもにとってもしばしば辛い過程を経て母子家庭化するよりも、初めから母子家庭のほうがすっきりするという見方もできそうです。

もっとも、精子バンクで生まれたことを知った子ども―知らせることは義務ではありません―がそれをどう受け止めるかは気になるところですが、同じ「仲間」が大勢いることを知れば、衝撃は少ないのかもしれません。
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by komunisto | 2015-10-10 08:16 | 社会