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2215年8月29日

23世紀の法律で興味深いのは、通貨偽造罪ならぬ通貨製造罪なる罪があることです。つまり偽金を作ることではなく、そもそも通貨を作ること自体が犯罪行為とされているのです。このことは、これまでにもご報告してきたとおり、貨幣経済が廃されていることの法的な帰結と言えます。

その点、そちら21世紀にはまだ常識中の常識であろう貨幣経済においては、通貨製造及びその流通は経済運営にとって必須である一方、通貨を偽造して流通させることは重大な犯罪として処罰される仕組みになっています。

貨幣経済が廃されているということは、物やサービスが貨幣と交換で取引されないことを意味しますから、通貨という媒介的流通物は存在し得ないということになります。存在し得ないということは、事実として存在しないばかりでなく、法的にもあってはならないことを意味します。

よって、法律上もおよそ通貨を製造することは罰則をもって禁じられているのです。この罪は貨幣経済における通貨偽造罪に相応する重罪とみなされています。ただし以前のたよりでご報告したとおり、23世紀には刑罰制度は存在しないため、通貨製造罪に科せられる処分は、没収及び最大5年の社会奉仕命令です。

紛らわしいのは、物々交換取引において事実上通貨的に機能する特定物や特定取引においてのみ通用するクーポンのような媒介物は通貨に該当しないかどうかですが、裁判所の判例により、これらは通貨に該当しないとされています。

そのため、貨幣経済の廃止とは、文字どおり通貨による交換経済の廃止という趣意であって、およそ交換経済の廃止(純粋贈与経済)を意味していません。ですから、これも以前のたよりでご報告したように、物々交換は結構盛んに行なわれています。

貨幣は現在一種の骨董品として、収集家たちの間でドルや円をはじめそれこそ世界中の廃貨が物々交換されています。切手の収集と同じようなものです。ちなみに、郵便料金前納証明書としての切手という制度も郵便無償化により廃止されていることも、ついでにご報告しておきましょう。
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by komunisto | 2015-08-29 09:21 | 法律
2215年8月23日

以前のたよりでもご報告したように、23世紀には臨床心理士が開業運営する臨床心理クリニコが少なくないのですが、同時に臨床哲学士という相談専門の哲学者も存在しているのでした。

この両者はどちらも心の悩みの相談に乗る点では、似たような仕事をしているのですが、資格としてはまったく別ものです。どのように違うのでしょうか。

まず心理士のほうはすでにそちら21世紀にも見られる心理士と同様、心理療法の専門家ですが、主に行動療法を行ないます(細かいことですが、より深く心の内奥に踏み込む精神分析は現在、医師の専権とされています)。

それに対して哲学士のほうは、より広く人生や死生観に関する悩みの相談に応じる新しい仕事です。そのため、病院やホスピスのような医療機関に在籍して患者の相談に乗ることも多いようです(開業や出張サービスをしている人もいます)。

このように二種の相談専門家がいるので、悩みを抱えた場合どちらにいくべきか迷いも生じると思われますが、大雑把に言って、正常な心の悩みについては哲学士、やや病的な心の悩みになると心理士という振り分けがあるようです。

これは23世紀の心理士が医療系の資格とされ、専門性も向上していることに関係しているようです。心理士が扱うのは、精神疾患一歩手前のような状態なのです。一方、哲学士のほうは人文系の資格であり、人生相談のような領域を担当しています。

ちなみに心理士の学問的素養の基礎にある心理学自体、現在では身体の生理学に対応する基礎医学に分類されるようになっており、いわゆる文系の学問ではなくなったのです。

一方、哲学も昔のように哲人が書斎で沈思黙考する抽象的・思弁的な学問ではなくなり、より実際的に人々が日常の中で抱える悩みに解決を与える実学として新たな発達を見せているのです。
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by komunisto | 2015-08-23 09:03 | 文化
2215年8月17日

21世紀初頭の世界では、世界各地で市民のデモ行動が盛んなようですが、23世紀の世界では同様のデモ行動はほとんど見られません。これはデモ行動が抑圧されているせいではなく、そもそもデモに訴えなければならないような不平不満がないからです。

デモ行動は市民の抗議行動の一形態ですから、デモの発生は抗議したくなるような施政がなされていることの証左です。いわゆる民主主義を標榜していても党派政治が行なわれていれば、党派的な不平不満は避けられません。

これまでにもしばしばご報告してきたように、23世紀には民衆会議を中心とした非党派的な政治が全世界に普及しているため、政治が党派的に左右されることはないのです。利害対立が起きても、抽選制の民衆会議で熟議され、中立的な落としどころが探られ、解決に導かれます。

23世紀の政治学者によると、民衆会議とは旧議会よりも裁判所に近いものだというのです。なぜなら、民衆会議は利害が対立する課題についても党派性抜きに審議し、中立的に結論を下すからです。

またデモによらなくとも、民衆会議への直接的な提議の手段が用意されているので、こうした民衆提議立法もよく行われます。そのように代表機関が文字通り民衆の代表として機能しており、議会制度のように選挙が終われば知らんぷりの間接代表機関とは根本的に異なるのです。

これも政治学者によると、代表者(議員)と一般市民が投票によって間接的にしか結ばれない旧議会とは異なり、民衆会議は代表者(代議員)と一般市民がより直接に結びつく「直接代議制」という理念に基づいているとのことです。

ちなみに、デモの自由は世界で広く認められていまして、21世紀にはデモが抑圧されていたような地域にあっても市民的自由が保障されるようになっていますから、民衆の抗議方法としては有効なのですが、それは奥にしまってあるというわけです。
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by komunisto | 2015-08-17 12:05 | 政治
2215年8月11日

個人の遺伝情報を利用したオーダーメイド医療とか個別化医療といった新しい医療は21世紀に登場していましたが、23世紀の医療ではこうした医療のあり方は普通のことで、遺伝子検査が定番となっています。

かつて定番検査といえば、レントゲンなどの画像検査であり、こうした画像検査では現在、いっそう精緻化されたアイソトープ検査が主流です。しかし、臓器等の現状態を視覚的に認識するだけでなく、どのような病気の遺伝因子があるかを検査して、予防や治療にも役立てるのが遺伝子検査です。

こうした遺伝子検査は革命前の資本主義時代には営利的な医療ビジネスに委ねられており、倫理的な面でも疑義がありましたが、現在では健康診断のメニューにも普通に入っており、また病院での検査でも画像検査と同時に行なわれることもあります。

医療情報の中でも遺伝情報は特に厳重管理を要する個人情報であるため、そうした情報面での不安がつきまといますが、営利ビジネスが存在しない共産主義社会では遺伝情報が営利的に悪用される危険はありません。

そのせいか、大胆にも個人の遺伝子検査結果はすべて中央医療情報センターにデータベース化され、医療機関が情報共有できるようにシステム設計されているのです。従って、遺伝子検査はどこかで原則として一度だけ受ければよいわけです。

こうした個人情報管理は中央情報保護庁によって常時技術的に監査されるとともに、中立的な個人情報オンブズマンによって法的な権利保護がなされるという技術面‐法律面の二重の防護体制によって守られています。

ちなみに貨幣経済が廃された23世紀には生命保険のような商業保険も存在しないため、生命保険加入に当たり遺伝病因子を理由に拒否される心配をする必要もないのです。貨幣経済廃止はこんなところでも効果を発揮しています。

ただし、遺伝病因子が社会的な差別の対象となる危険は残るわけですが、これに関しては包括的な差別禁止法において病気を理由としたあらゆる差別の禁止が規定され、法的な救済手段が用意されています。
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by komunisto | 2015-08-11 10:40 | 衛生
2215年8月5日

米国民を対象とした2015年の米世論調査によると(2015年8月5日東京新聞報道)、日本への原爆投下に関して、44歳以下の年齢層では「誤った判断だった」と答えた人が「正しい判断だった」と回答した人より多いという結果が出たそうです。

全体でも原爆投下を正しかったとする多数意見は46パーセントまで下がったとのこと。200年後の現在から振り返ると、この調査結果は一つの吉兆だったようです。21世紀には想像を超えることでしたが、世界最初の原爆使用国にして、世界最大の核保有国でもあったアメリカでも民衆革命が勃発し、アメリカ合衆国が解体されたことが(旧稿参照)、核兵器廃絶の大きな推進力となったからです。

2年前のたより「軍隊なき世界」からも推察されるとおり、2215年現在、核兵器はもちろん、そもそも兵器自体が存在しません。より正確に言えば、地球上で使用する兵器は存在しないということになります。すなわち、23世紀の兵器は地球外からの攻撃に備えた航空宇宙兵器に限定されています。

ここまで到達する道のりは長かったわけですが、このような兵器なき世界の構築こそ、21世紀末から22世紀初頭にかけての世界連続革命の大きな成果の一つでした。その手始めが、今から100年以上遡る2110年に発効した核兵器全廃条約です。

核兵器廃絶を突破口として、核以外の大量破壊兵器、さらには通常兵器に至るすべての兵器の保有禁止が地球的な規範となったのです。このことは、旧国際連合に代わって世界を束ねる世界共同体の憲章として明文化されています。

ちなみに先に言及した航空宇宙兵器ですが、これは異星からの攻撃といういささかSF的な想定に基づき、世界共同体が共同で製造・保有する共用兵器です。もちろん大量破壊兵器ではなく、防衛的な通常兵器です。その運用は厳格な手続きに従い、世界共同体の航空宇宙警戒軍がこれを行ないますが(上記旧稿参照)、幸い、これまで一度も発動されていません。

識者の中には、信頼できる従来の宇宙研究の結果からみて、地球を攻撃し得る能力を備えた異星人が存在する確率はほぼゼロだとして、こうした共用兵器の廃止を主張する意見もありますが、そこまで徹底した兵器廃絶論はなお一般化していません。

とはいえ、核兵器なき世界の構築さえ、空疎な美辞麗句にとどまり、実のある進展がなかった21世紀に比べれば、こうした23世紀のSF的論議はそれこそ夢のような観があるでしょう。しかし、200年後の人類は確かに兵器なき世界を構築しているのです。
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by komunisto | 2015-08-05 20:04 | 政治