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 近現代の学術研究者は大学という高等教育機関を通じて養成され、多くは大学に教員として勤務することが世界的な通例となっていますが、自由な共産主義社会には大学という高等教育機関が存在しないため、研究者のあり方も違ってきます。
 自由な共産主義社会では大学に代わり、学術研究センターがその名のとおり学術研究の中心機関となります。学術研究センターは学術分野ごとの研究所―例えば理学研究所、経済学研究所等々―の集合体として設立され、各研究所に常勤職または非常勤職の研究員が所属し、研究活動に従事します。
 
 研究者を職業として志望する場合は、一貫制基礎教育課程を修了後、まずは学術研究センターに研究生として「就職」するところから始まります。研究生の選考に際しては、一定の学力試験を課せられることもありますが、これは大学入学試験のような選抜試験ではなく、就職試験の一種です。
 研究生として採用されると、各研究所に配属され、先任研究員の下で研究活動の見習いをしますが、研究生は学生ではなく、研究センターの正規職員です。研究者の養成は、こうした実地研修を通じて、各研究所ごとに独自のプログラムによって行なわれます。
 
 こうした学術研究センターには、大学のように教授を頂点とする教員の階級はありません。その代わりに、センター内の研究プロジェクトごと、さらにはプロジェクト内のサブ・グループごとに責任者が置かれますが、これらとて階級とは異なり、あくまでも研究上の職責に応じた地位にすぎません。

 
 一方、学術研究センターとは別に、民衆代表機関である民衆会議に属し、民衆会議に対して政策立案及び立法に必要なデータや学術論文等の政策情報を提供する公的シンクタンクの役割を果たす政策調査機関も、研究者としての有力な就職先となります。
 政策調査機関に所属する研究調査員は学術研究センターの研究者に比べると、政策直結的な実際的研究調査活動に従事することが本務ですから、人文学や理学のような純粋学術ではなく、社会科学や工学などの政策科学的な分野の研究職となります。
 
 政策調査機関は政策分野ごとにたくさんあり、それぞれが研究調査員を擁しますが、すべて公的機関ですから、その身分は専門職公務員です。ちなみに、学術研究センターには私立のものもあり、その場合の研究員の身分は民間人となります。
 政策調査機関の研究調査員の採用は各機関の裁量に委ねられるため、学術研究センターにおいて研究員としての経験を一定以上有することを応募条件とされることもあるでしょう。従って、基礎教育課程から直行で就職できるとは限りません。


# by komunisto | 2020-07-01 12:03 | §5 職業

 前回まで自由な共産主義社会における代表的な職業について取り上げましたが、自由な共産主義社会では、農林水産業のような第一次産業も家業として世襲されるのではなく、計画経済によって運営されますから、労働という面では「就職」の一環に入ってきます。

 資本主義社会ではほとんどが世襲の家業によって担われていたために後継者断絶により衰退を余儀なくされた第一次産業が、自由な共産主義社会では産業社会のまさに第一次的な柱としての地位を取り戻しますし、義務教育を修了した人全員がひとまずは就職するという機会均等の徹底により、第一次産業への就職に関して何らの引け目も感じる必要はありません。
 その就職ルートも簡単明瞭で、農林畜産機構、水産機構といった各分野の一元的な生産機構への就職という形になります。いずれの場合も、義務教育課程を修了した後、教育と連携した職業紹介所の就職斡旋を受けて各地の機構農場等に就職する形になりますから、一般的な就職と変わりありません。

 
 農林畜産機構は農業・林業・畜産業全般を担う公的な生産機構ですが、この機構が運営する各地の農場や森林、牧場で作業に当たるのが、機構職員である農務員・林務員・畜産員です。
 ちなみに農務員はいわゆる「農民」ではなく、機構の内部研修で教習された農学に関する一定以上の知識技能を備えたプロフェッショナルな農業者です。林務員や畜産員もそれに準じます。
 
 一方、自由な共産主義社会では、狩猟の一種である漁業も生物多様性の確保の観点から、厳格な漁獲管理が図られるため、計画化され、農林畜産機構に対応する水産機構という公的な機構が設立されます。
 漁業ではその性質上、農場のような区画された生産場を設定することはできませんが、漁業水域や養殖場の管理、漁港・漁船の運用から水産加工まで水産機構が一元的に担います。
 この機構が管理する水域や養殖場で作業に当たるのは、機構職員である漁労員です。漁労員もいわゆる「漁民」とは異なり、機構の内部研修で教習された水産学や操船に関する一定以上の知識技能を備えたプロフェッショナルな漁業者です。

 
 ちなみに、これら機構職員には単身または家族で居住できる専用住宅が無償で機構から貸与されるため、通勤の必要はありません。こうした専用住宅地エリアが農村や漁村を形成することになるわけですが、その外観は「村」というよりは、農業街・漁業街といった感じになるでしょう。


# by komunisto | 2020-06-20 11:56 | §5 職業

 自由な共産主義社会は貨幣経済を廃した計画経済によりますから、典型的な資本主義社会のような工場での大量規格生産体制は限られた分野だけになります。その分、資本主義社会以前の職人による少量高品質生産の慣習が復活してきます。そこで、各種の職人も有力な職業選択肢となるでしょう。
 
 とはいえ、中世のような親方‐弟子の徒弟制がそのまま復活してくるのではありません。熟練職人は協同労働集団や生産協同組合のような零細・中小企業を設立して工房/工場[こうば]を経営するとともに、業種ごとの職人組合を結成します。業種ごとの職人組合は職人の技能研修も自治的に行ないます。
 正規の職人となるには、まずは上記のような工房/工場に見習いとして入職したうえで、職業組合が指定する技能研修を受けます。職人組合は連合組織を有し、職人の公認資格の認証を統一的に行ないます。最終的に、この組合連合会の資格認定を受け、公認職人称号を得て初めて一人前の職人として認められることになります。

 
 ちなみに、資本主義社会では、言葉は良くありませんが、「底辺仕事」と見られがちな建設作業員とか清掃員のような仕事も、自由な共産主義社会では一個の職人として認められます。
 実際、建設作業や清掃も、安全かつ完璧に仕事をこなすには熟練した技能を要する職人仕事であり、共産主義社会ではそうした技能が正当に評価されるのです。
 建設や清掃に関しては、地方自治体に属し公共建造物の建設に当たる建設事業団や地方自治体清掃局の職員となる道もあります。これらは準公務員あるいは公務員そのものですが、通常の公務員とは異なり、職人資格を持った現業職公務員となります。
 
 建設事業団は担当地域ごとにいくつかの作業隊に分かれており、作業隊は安全確保のため、高度な規律をもって統制されます。隊員は付属の学校を通じて高度な技能訓練を受け、時には困難な災害復旧に出動する場合もあります。自由な共産主義社会の建設作業隊員は底辺どころか、人気職種となるかもしれません。


# by komunisto | 2020-06-10 12:13 | §5 職業

 自由な共産主義社会においても、公務員は公共サービスを提供する労働者として重要な役割を果たしますが、自由な共産主義社会には政府とか役場といったものは存在しません。そのため、民間労働者と公務員の区別はさほどなく、公務員=公務労働者といったイメージとなります。
 
 自由な共産主義社会の公務員には、事務職・現業職・専門職・特別職という種別があります(これら種別間に優劣の差はありません)。
 このうち、最も一般的な事務職公務員に関しても、特別な統一試験の合格者から採用するというエリート選抜システムはないので、企業員と同様に随時募集となります。従って、公務員が企業員よりも優越的であるというようなこともなく、労働者としては同格です。
 
 身分の安定性という点でも、貨幣経済ではないため、企業員は景気いかんで解雇もあり得るが、公務員は終身雇用で安定しているといった違いも特にありません。どちらも本人が希望する限り、終身雇用であり、安定性があります。
 ただし、政府や役場が存在しないということはそれだけ公務員の員数は限られていることを意味しますから、事務職公務員への就職口は企業員ほど多くありません。
 
 現業職公務員は、標準以上の身体能力及び精神力を要求される公務員です。これらの公務員の場合は、職務遂行に必要な心身の能力を試すための試験に合格する必要があります。
 ちなみに、自由な共産主義社会には警察制度が存在しないため、警察官という職業も存在しなくなりますが、警防団という地域の公的な防犯・警備組織が基礎自治体ごとに設置されます。この警防団員は常勤または非常勤のみなし公務員という身分を持ち、やはり試験採用によります。
 
 医療公務員や教育公務員などの専門職公務員の場合は、それぞれに職務上の免許や資格を要するため、後に専門職への就職に関する項目で述べることがあてはまります。また代議員や司法員などの特別職公務員の場合も、前提としてそれぞれの免許や資格を要しますから、これも後述することとします。

 


# by komunisto | 2020-05-29 11:42 | §5 職業
 自由な共産主義社会における就職のあり方については、前回記事でその概要を述べましたので、ここからは自由な共産主義社会において想定される代表的な職業について概観していきます。
 
 まずは、企業労働者たる企業員です。資本主義社会の企業と言えば、株式会社が最も典型的ですが、共産主義的企業は企業の規模と内部組織のあり方により、大きく三つの形態に分かれます(内部組織の話は割愛します)。
 
 最も大規模なものは「生産事業機構」と呼ばれます。これは計画経済の対象となる基幹産業分野の大企業です。すべて全土的規模の大企業ですが、業種により程度差はあれ、業務は地方事業所ごとに分権化されており、採用も地方事業所ごとに行なわれますから、全土を転勤して回るようなことはありません。
 
 もう一つは、「生産協同組合」と呼ばれる形態で、企業数から言えばこれが最も中心を占めます。計画経済から外れる各種の中小企業です。規模が小さいため、その運営は労働者自身による自主管理によります。採用も、企業ごとに自由に随時行ないます。
 ちなみに、「生産協同組合」が業務を拡大し大規模化すると、「生産企業法人」という名称に変更されることがあります。これは、中小企業から成長した大企業です。
 
 最後に零細企業として、「協同労働グループ」があります。これは数人から十数人といった少人数の労働者が集まって結成した職場ですから、企業というよりは職人工房のようなイメージです。

 
 これら三つの形態の企業間に、大企業>中小企業>零細企業のような優劣の差はなく、どのような企業に就職するかは、各自の志望や適性いかんによります。いずれにせよ、自由な共産主義社会では基礎教育課程を自分のペースで修了すれば、とりあえずは就職するのですから、どれでも同じことなのです。
 
 職人工房的な性格の強い「協同労働グループ」は別として、それ以外の各企業では職員に対する教育研修の制度が充実します。特に生産事業機構や生産企業法人のような大企業になりますと、企業付属の学院を備えています。
 この企業付属学院は、職員の教育を内部研修として非公式に行なうのではなく、常勤教員を擁する公式の付属教育機関です。ですから、最初の就職の時点では専門的な知識技能がなくとも、企業付属学院を通じて段階的に訓練されていくので、働きながら知識技能を深め、キャリアアップにもにつなげていくことができるわけです。


# by komunisto | 2020-05-22 12:47 | §5 職業