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 前回、自由な共産主義社会では、義務制の基礎教育課程を修了すれば、全員がひとまず就職すると申しました。一般基礎教育は標準年限13か年であることも申しましたが、この年限はあくまでも標準であって、しかも一部教科を除いて原則通信制ですから、厳密に13か年で修了させる必要はなく、自分のペースで全課程を終えた時点で修了します。
 
 その結果、基礎教育修了年齢及び入職年齢も、各自まちまちになります。一斉卒業・一斉就職というような画一的な人生設計ではなくなるわけです。そこで生きてくるのが、前回見たように基礎教育課程の中盤以降で実施される職業導入教育です。
 
 これによって基礎教育課程終盤にはとりあえずの進路が決定されてきますから、進路を迷い続けていわゆるニート化する心配もなくなります。仮に迷うことがあっても、専門職の進路指導教員が一人一人面談して進路決定を助けますし、公設の職業紹介所と連携した就職斡旋も密に行われますから、ニート化の危険はありません。
 
 特例として、21歳までに義務教育課程を修了することができなかった場合、基礎教育中途のまま、試験的な就職を斡旋する制度もあります。この場合も、中退扱いとはならず、就業と基礎教育を両立させることが認められます。
 
 以上は、一般基礎教育を修了した人の場合ですが、障碍者の場合も基本は同じです。ただ、障碍児の基礎教育課程には標準年限そのものが存在しないため、基礎教育課程中途での試験的就職もより柔軟に認められます。

 
 一方、前回も触れた医療者、法律家、教員などの高度専門職のほか、福祉やその他各種技能者のような公的職業資格・免許を要する専門技術職に就くには、その前提として3年から5年程度の就労経験を要します。そのうえで、所定の高度専門職学院(例えば医歯薬学院、法学院、教育学院等々)に入学して3年か4年程度の所定専門教育を修了することが要件となります。
  
 また、アスリートやアーティストといったスポーツ・芸能分野のように、公的職業資格・免許は要しないものの、高度な特殊技能を要する専門職を目指す人向けにも、体育学院や芸術学院といった高度専門職学院が用意されますが、スポーツ・芸能分野は仕事の性質上、それらの学院を卒業することが絶対的な要件となるわけではありません。
 
 専門職学院以外にも、専門的職業教育を提供する学校がいくつか用意され、それらは成人に対して新たな人生設計を可能とする生涯教育機関として位置づけられますが、自由な共産主義社会ではそうした生涯教育を通じた人生設計の自由が広く保障されることになるのです。


# by komunisto | 2020-05-10 11:38 | §4 就職

 自由な共産主義社会における基礎教育課程で特徴的なことは、全員必修の職業導入教育が実施されることです。というのも、自由な共産主義社会には大学という高等教育機関が存在せず、標準年限13か年に及ぶ基礎教育を修了すれば、ひとまず全員が就職することを前提とするからです。
 そこで、基礎教育課程の中盤を越えたあたりから、労働現場に触れさせる体験学習が導入されます。これによって、10代から職業イメージを持ってもらい、将来の人生設計の手助けをすることが狙いです。
 
 具体的には、職業導入教育の序盤では「社会科見学」方式で様々な労働現場を直接に見学して回り、実際に働く人々の姿をとらえます。終盤に入ると、生徒が各自志望する工業、情報、事務、農業、水産、研究といった代表的な職域ごとに分かれた職業指導に加えてインターンシップを導入し、希望する職場で短期間体験労働に従事します。
 このようにして基礎教育課程を修了した段階で、原則として全員がひとまずは就職する体制が作られるわけですが、そのために心理学や社会学の知識を備えた専門職の進路指導教員を通じ、職業紹介所と連携して生徒の適性と志望に合った職場を紹介するシステムが用意されています。これについては次回、就職の項で改めて説明します。

 
 ここで、二つの例外を確認します。一つは医療者、法律家、教員などの高度専門職に関する職業教育です。これらの職種に関しては、基礎教育課程修了後、少なくとも5年以上何らかの就労経験を持つ有職者を対象に、選抜試験に依存せず、職歴内容や使命感、人格識見などを主要素として選考したうえ、特別な高度専門職学院で専門教育が実施されます。
 
 もう一つは、障碍者に対する職業教育です。前に触れたように、障碍者の基礎教育には標準年限もありませんが、最終的には障碍者もその特性や程度に応じて就職可能となるように職業教育がなされます。ただし、その内容は非障碍者の場合とは自ずと異なります。
 インターンシップに入る前に、障碍の内容に応じてマンツーマンに近い形で能力開発教育が実施されます。そのうえで、障碍者に関する専門的知識を備えた進路指導教員を通じ、職業紹介所と連携して生徒の適性と志望に合った職場が紹介されます。


# by komunisto | 2020-04-10 13:10 | §3 教育

 自由な共産主義社会では、障碍児にも等しく基礎教育が提供されますが、こうした障碍児基礎教育を提供するのも中間自治体(郡)であり、通常の基礎教育と同様に無料です。
 自由な共産主義社会の教育の基本は、障碍の有無を問わない統合教育です。そのため、知的障碍のない身体障碍児や複合障碍のない感覚障碍児の場合には、通常の基礎教育が提供されます。
 
 しかし、複合障碍児や知的障碍児に対する基礎教育は、その状態に応じて、通常の基礎教育とは異なる内容となります。例えば13か年という標準修了年限が設けられず、成人した後も継続教育を受けることができます。
 そのうえ、教員による訪問教育が基本となります。つまりは家庭教師型の教育です。障碍児の場合は、個別的な教育が非障碍児以上に必要かつ有効であることから、そのような方式が採られます。訪問教員には障碍の内容別に訓練を受けた専門教員が充てられます。
 なお、乳幼児期には健常的と見えながら、成長の過程で発達障碍のような隠れた障碍が発見される場合もありますが、そうした場合、通常の基礎教育から障碍児基礎教育に変更することも可能です。

 
 ところで、障碍児の教育では、状態により障碍の原因となっている疾患の治療を兼ねた治療的教育―療育―を要することから、障碍児基礎教育に対応する療育センターが設置されます。同センターには医師・看護師や各種療法士のような医療系スタッフも配属され、定期的に必要な診断や治療を受けることができます。
 さらに、療育センターでは、上記の訪問教育を補充する教育も行われるとともに、保護者からの発育や進路に関する相談を受け付けるほか、自宅での介助に多くの労力を要する重度心神障碍児の保護者が定期的に休息を取れるように、障碍児の短期宿泊サービスも提供されます。
 
 こうした療育の成果として、生徒がほぼ健常レベルまで成長した場合は、事後的に通常の基礎教育に変更したり、部分的に通常の基礎教育の科目を受講するといった柔軟な対応も可能です。
 このような点でも、自由な共産主義社会における基礎教育は健常児と障碍児とを終始厳格に分離するものではなく、相互に融通の利く柔軟な統合的教育システムとなるわけです。


# by komunisto | 2020-03-10 12:55 | §3 教育

 義務保育が終わると、続いて義務教育課程に入ります。正式には「基礎教育課程」と呼ばれる自由な共産主義社会の義務教育課程は比較的長く、6歳から18歳までの13年間に及びます。現行教育制度で言えば、ほぼ高等学校段階までがすべて義務化されるとともに、時として入学試験によって分断される小学校・中学校・高等学校といった段階的区分けも、等級的な学年もなく、1年=1ステップで構成された13年一貫制教育になります。
 
 とはいえ、長期の教育費を心配する必要はありません。貨幣経済ではないため、当然基礎教育は完全無償であり、かつ基礎教育を提供する自治体―基礎自治体(市町村)より一段広い中間自治体である地域圏(郡)―も財源という金銭的拘束から解放されるため、すべての自治体で完全に同等の基礎教育を提供することができるのです。
 
 さらに、学校という施設も存在せず、完全通信教育化されています。つまり、学校に通学する必要はないのです。基礎教育課程に就学すると、全教科のテキストが搭載済みの専用端末が全員に配布され、それを通じて自習の形で学んでいきます。
 ただし、電子メールによる質問を受け付けたり、体育のように性質上通信教育に適さない実技教科を提供する学習センターは設置され、そこには自習室や図書室が備わり、教員が詰めていますが、教員が黒板の前で講義する形の授業というものはありません。
 とはいえ、通信による自宅学習の効率上、動画による学習ガイダンスが単元ごとに予め専用端末からいつでも再生できるほか、各ステップごとに年数回の義務的課題があり、これを提出し、評価を受けないと次のステップには進めません。従って、13か年一貫制といっても実際に要する年限には自ずと個人差があります。

 
 上述したように、自由な共産主義社会における基礎教育はすべて郡を単位とする自治体によって提供され、私立の基礎教育は存在しません。私立の「学校」自体の設立は自由ですが、それらはすべて「私塾」の扱いであって、誰でも設立できる反面、正規の学校とは認められないのです。従って、私立学校は主として芸術・芸能、スポーツ系などの特定技能を専門的に教える教育組織となるでしょう。
 他方、基礎教育課程では音楽、美術等の芸術系科目は必修科目でなくなり、また体育では陸上競技、球技等々の各種競技種目は除外され、発育促進及び健康保持に資する運動を主とした健康体育のみが提供されるため、私立学校は子どもの趣向・適性に合わせて補習する場として活用されるでしょう。
 
 それ以外に学習塾のようなものに通う必要はありません。後に就職に関する項目で見ますように、自由な共産主義社会では「学歴」という属性に人生設計が左右されることは一切ありませんから、上級の学校の卒業資格を得るために基礎教育に上乗せされた高等教育を受ける必要もないのです。つまり、個人差はあれ、所定の基礎教育を自分のペースで修了すれば、ひとまず就職のための必要要件は満たされます。


# by komunisto | 2020-02-29 11:58 | §3 教育
 出生後、人の乳幼児は誰かのケアなしには自力で生きられません。このことは、自由な共産主義社会でも当然同じです。子どものケアの始まりは、親による養育です。しかし、自由な共産主義社会において、子どもは養育能力・意欲に大きな個人差のある親の養育のみに依存しません。基本的に、子どもは社会が育てるのです。そのために保育が高度に社会化されます。
 
 具体的には、生後6か月から5歳までの乳幼児すべての保育が義務づけられます。義務教育ならぬ義務保育です。その点、資本主義社会の保育が働く親のための託児に過ぎないのとは大きく異なります。保育は義務ですから、働いていない親の子も保育所に通わせる義務が生じることになります。
 もっとも、働く親のための託児所機能も存在しないわけではありませんが、自由な共産主義社会の労働は4時間制を原則とするため、託児時間もほぼ半日で足ります。ただし、特別な事情があれば、半日を超える託児や義務月齢に達しない6か月未満児の託児も任意保育として認められます。
 
 自由な共産主義社会における保育所は単なる託児所ではなく、それ自体がまさにと教の場でもあります。保護は当然として、ここでの乳幼児の教育とは英才教育ではなく、社会性教育です。
 人の社会性は乳幼児期の教育で決定づけられ、就学期では遅いとされます。後に教育の項で改めて見ますが、基礎教育(義務教育)は原則的に通信制であるのに、義務保育では「通学」制を採るのも、乳幼児期の社会性教育の大切さが考慮されてのことです。
 ちなみに、幼稚園という任意の幼児教育制度は存在しません。保育の教育機能が重視されることからすると、ある意味では全保育所が準幼稚園化されると言えるのかもしれません。
 
 自由な共産主義社会における保育は、任意保育の部分も含めて、すべて基礎自治体(市町村)による完全無料の公共サービスとして提供されます。入所は居住地に応じ自動的に決まりますが、保育所は基礎自治体内の地区ごとに完備され、全所同一内容の保育を提供しますから、心配はありません。

# by komunisto | 2020-02-23 10:55 | §2 保育