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 自由な共産主義社会は、半日労働制の実現などにより労働によるストレスが最小限に抑えられる結果、健康寿命は延びると予測されますが、そうは言っても加齢による心身の衰えを完全に避けることはできません。そうした場合に必要となるのが介護サービスです。

 共産主義社会の介護サービスは在宅を基本としつつ、他のサービス同様に、完全無償で提供されます。在宅介護サービスの拠点となるのは、市町村内各地区に設置される介護ステーションです。介護ステーションは、各地区の社会サービス全般を統括する社会事業評議会が直営します。
 
 介護が必要になった場合は、まず社会事業評議会の窓口に相談します。その結果、対象者に対する状況調査を経て、必要なケア・プランが立てられます。その際、要介護ランクに応じてサービスの受給制限をかけるような制度はなく、必要なケアが過不足なく受けられます。
 介護ステーションには在宅診療所も併設され、在宅医療もカバーした総合的なケアが24時間体制で提供されます。サービスの主力となるヘルパーの他、社会的孤立の防止のため話し相手になる傾聴ボランティアも必要に応じて参加します。

 
 こうした在宅介護システムを支える住宅制度として、介護サービス付き住宅があります。これはヘルパーが常駐する公営の介護付き住宅で、高齢者のみならず、障碍者も利用できます。この住宅は、家族も同居できるように設計されています。その結果、介護施設という特殊な制度は必要なくなるのです。
 
 とはいえ、介護度が重くなれば、医療的ケアを伴う介護を提供する場が必要となります。そのために、高齢者看護施設が用意されます。医療的ケアを行なうため、医師も所属しますが、施設責任者を含め、看護師が主力となって最期の看取りまで行なうのが高齢者看護施設です。
 
 さらに、看護施設でも対処し切れない医療処置を必要とする場合の備えとして、高齢者療養所があります。高齢者療養所は看護施設とは異なり、病院としての機能を備えた施設であり、医師が主力となって運営され、長期の療養も可能とします。
 療養所の中でも、認知症専門療養所は認知症による徘徊その他の問題行動が多く、介護サービスの枠組みではケアし切れない場合に、集中的に症状改善を行なう場となります。症状が改善されれば退所し、自宅等に復帰することも可能となります。


 自由な共産主義社会には、原則として定年という一律的な強制退職制度がありません。「原則として」というのは、例外として公務員のほか、加齢によって職務遂行が困難となる職種については定年制が採られますが、一般的な職種に定年制度はないということを意味します。

 

 自由な共産主義社会では、年齢による雇用上の差別的待遇が禁じられる結果、年齢による一律退職制度も、上述のような例外的な場合を除き、原則として認められないわけです。従って、比較的若い年齢で退職して隠居するも、体力ある限り終身間仕事を続けるも各人の人生選択の問題となります。
 
 ただし、高齢に達した職員に対し、個々の職場において、個別的な理由(例えば、職務上のミスの多発など)に基づき、閑職に配置転換されたり、退職勧告がなされることはあり得ますし、場合によっては解雇されることもあるでしょう。
 高齢労働者に対するそうした個別的な処遇の適否については、前回見たように、苦情申立てにより企業内の労働仲裁委員会や労働護民監が裁定します。

 
 さて、ひとたび退職を選択した場合の老後生活も資本主義社会とは相当違います。資本主義社会の多くが何らかの形で備えている年金制度は、自由な共産主義社会にはありません。これも貨幣経済が廃されるがゆえの結果です。
 そのうえ、貨幣経済が存在しないというそのことによって、年金のような特殊な生活資金も必要としないことになります。なぜなら、貨幣がなくても基本的な衣食住に関わる物品・サービスはすべて無償で提供されるからです。
 
 また雇用における年齢差別が禁じられるということから、いったん退職した後、再就職する道も広がるでしょう。年齢だけを理由に雇用を拒否されることはないからです。そのため、「60歳の新人職員」といったことも 別段滑稽なことではなくなります。ただし、ここでも年齢以外の個別的な理由から採用されないことはあり得ます。
 
 ちなみに、国家という単位が廃される関係上、国境という概念も存在しない自由な共産主義世界では、海外で老後生活を送ることも現在よりはたやすくなります。好きな所に移住し、しかも貨幣がなくとも生活していけるからです。

 もっとも、どこにいようと、老後の不安はないうえに、貨幣制度がないため税金はもちろん、物納による租税もないので、租税回避のためタックスヘブンの海外へ移住する必要性もなくなりますから、あえて海外で老後を過ごそうと思う人はそう多くないでしょう。


 人権護民監に分類されるものの中で、労働護民監は職場での人権擁護に関して重要な役割を果たします。ただし、自由な共産主義社会に賃労働はありませんから、賃金をめぐる労働紛争という資本主義社会ではお定まりの紛争は生じる余地がありません。

 
 とはいえ、労働時間や休暇、各種のハラスメントなどをめぐる紛争は共産主義社会にあっても生じ得ます。そうした場合の解決方法として、第一次的には職場に置かれる労働仲裁委員会が最初の窓口となります。労働基準をめぐる何らかの紛争を抱える労働者はまずここへ駆け込みます。
 
 労働仲裁委員会とは雇用者と利害関係を持たない法律家で構成される調停機関であり、零細企業を除くすべての企業体及び公共機関でも常置が義務づけられる組織内司法の一種です。職場の単なる相談室とは異なり、雇用者から独立した組織ですから、丸め込まれるような心配もありません。
 
 労働仲裁委員会は公式の機関ですので、労働仲裁委員会の決定には確定力があり、雇用者・被用者双方が決定に従わなければなりません。労働仲裁委員会で解決しなかった場合に、労働護民監が控えています。

 
 労働護民監は、労働仲裁委員会の仲裁が功を奏しなかった場合または労働仲裁委員会が置かれていない職場での労働紛争を解決する護民監の一つです。労働基準監督官に近いイメージですが、警察権は持っておらず、護民監による調査と審査は任意的に行なわれます。ただし、必要な場合、証拠提出命令や立入り調査も行います。
 
 また前回も触れましたように、職場で発生した労働者に対する各種の差別事案については、反差別護民監ではなく、労働護民監が第一次的に受理し、調査対象とします。ただし、事案の内容によっては、労働護民監から反差別護民監に移送される場合もあります。

 
 労働護民監は労働者からの申立てに基づき調査を開始することが原則ではありますが、内部情報や調査報道をきっかけに、該当する企業等に対して抜き打ち調査を行なうこともあります。その結果、労働基準法違反等の証拠を発見した場合は、捜査委員会に告発し、捜査を求めます。


 護民監に関する続きです。人権護民監に分類される中でも幅広く活躍するものとして反差別護民監があります。自由な共産主義社会において、反差別は人権政策上最大の軸となります。いわゆる「法の前の平等」にとどまらず、より現実的・社会的な平等が目指されるのです。

 
 とはいえ、残念ながら、差別は人類にとって習慣のようでありまして、共産主義社会においても差別事案は発生するでしょう。そうした場合、差別を受けたと認識した人にとっての駆け込み寺となるのが反差別護民監です。
 
 反差別護民監は、およそ差別事象全般を扱いますが、例外として、職場で発生した差別事象については、労働紛争全般の解決を任務とする労働護民監の管轄となります。
 
 反差別護民監は申立てを受けた事案について、まず本当に差別行為が行なわれたことを証拠に基づき認定します。必要な場合、令状に基づき立ち入り調査や必要な証拠類の提出命令、関係者の召喚命令を発することもあります。そのうえで、差別した当事者に対して警告や是正命令を出します。
 
 なお、反差別護民監はおおむね広域自治体ごとに、かつその内部の管区ごとに複数任命され、市民からの申立てに対応します。

 
 人権護民監に分類されるもう一つのものは子ども弁務監です。こちらも名称こそ護民監を名乗りませんが、子どもの人権救済を専門とする護民監です。子どもを代弁するという意味で、弁務監といいます。

 
 子どもの保護に関しては、「未成年者福祉センター」という公的機関も用意されていますが、こちらは自身で申し立てるなどの積極的な行為ができない乳幼児や障碍児、被虐待児などの福祉的保護を中心とするのに対し、子ども弁務監は申立てを前提とした人権救済機関としての役割を果たします。
 

 子どもの人権救済では、いじめの問題が最も代表的でしょう。義務教育が原則通信制となる共産主義社会では、多く通学制の学校現場で発生するいじめは激減すると信じたいところですが、なかなか理想どおりにはいかないかもしれません。
 
 子ども弁務監に対しては、保護者のみならず、子ども自身が保護者の同意なく単独で申し立てることができます。まさに子どもの駆け込み寺です。ですから、子どもはいじめを受けていると認識すれば、自分の意思で弁務監に調査を求めることさえもできるわけです。
 
 なお、子ども弁務監はできる限り子どもの身近で活動できるように、市町村単位で少なくとも一名は任命されます。


 自由な共産主義社会には裁判所制度が存在しないのですが、その分、司法の領域がかなり広くなっています。すなわち、護民監と呼ばれる特別な司法職が存在します。護民監とは、読んで字のごとく、民を護る監督者といった意味です。

 裁判官がまさに裁判をする官であり、当事者から中立な立場で判決を下すのに対し、護民監は民の側に立って、民を護る立場から司法的決定を下す点に違いがあります。従って、護民監は高みから判決を下すのではなく、監督者(または監察者)として、事案の調査や関係者の処分、当事者の救済を積極的に行います。

 護民監には、民衆会議に直属する民衆会議護民監のほかに、人権救済に当たる人権護民監の種別があり、それぞれ異なる任務を持っていますが、いずれの護民監も法律専門職である法務士から一定の任期をもって任命され、基本的には具体的な申立てに基づき問題事例を強制権限をもって調査し、必要な勧告を出したり、個別に被害者救済を図ったりします。

 中でも、民衆会議護民監は、民衆会議自体やその他のあらゆる権力機関の不正・不当行為を是正する役割を負う最も強力な護民監です。一般市民からの行政不服にも対応し、行政裁判に近い働きもします。

 人権護民監には、主として各種の捜査令状を発付し、捜査手続きの適正を担保する人身保護監のほか、差別事案の調査と当事者救済に当たる反差別護民監、労働者の権利擁護を専門とする労働護民監、個人情報保護を専門とする個人情報護民監、子どもの権利擁護に当たる子ども弁務監など、専門領域ごとに分かれ、若干名称を異にします。

 このように、いろいろな護民監が取り揃っているので、およそ何らかの人権を侵害されたと認識した人は、どこへ相談すべきか迷う前に、とりあえず該当する護民監に救済の申し立てをしてみればよいわけです。

 貨幣経済は存在しないため、手数料のような金銭的負担は一切かかりませんし、法的代理人を立てる必要もありません。護民監の審判は原則として非公開ですが、当事者の請求により公開することもできます。